目を覚ますとそこは、違う世界だった。なんて言葉から始まる小説(正確にはドリーム小説又は夢小説)をたくさん読んできた。あれはフィクションだって分かっていたからこそ主人公に投影して読めていただけで、実際に自分が飛ぶことになるなんて考えたこともなかった。だからあの頃読んでた夢主達のように、強く生きていく覚悟なんてない。その世界を楽しむ余裕もなく、ただ精一杯生きていくしかなかった。そんな私に手を差し伸べてくれたプリンス達との短い夢のような夏の記憶。きっと、これは夢物語であり、いつかと想いを馳せるそんな物語。
気がつくと私は何故か水の中にいて、深く沈んでいた。突然のことに思わず口を開けてしまい、すぐに苦しくなる。あぁ、死ぬんだなと思いながらも光が指してる方へ手を伸ばした。助かりたいという気持ちもあったけど、それよりはドラマでしか見たことない行動を試してみたくなったのだと思う。
水面から人が飛び込んできたと思っているうちに、その人影は私の元へやってきて、私の手を掴んで水面へあがっていった。逆光で、顔は良く見えなかったけど私はどうやら助かるらしい。水の中から顔を出して、咳き込んでから新鮮な空気を吸い込んだ。私を助けてくれた人は私をギュッと抱き寄せて、身体のバランスが取れてない私を支えてくれていた。私の呼吸が整うまで待っていてくれるその人に、お礼を言おうと口を開いたその時。どこか聞き覚えのある声に私はドキリとした。
「・・・おい。お前どこから忍び込んだ?」
「し、忍び込んだ?」 「あーん?知らないとは言わせねーぞ。ここは俺様の敷地内にあるプールだ」
そこでやっと抱き寄せられてる人物の顔を見上げた。金髪碧眼に俺様呼び。どこからどう見ても中学生には見えない彼のセクシーな表情に、友人ときゃあきゃあ言っていたのが懐かしく思うほど、彼のことは昔から一方的によく知っている。私を抱えてない方の手で、濡れた髪の毛をかきあげ、その先からポタポタと水が落ちる。あーこれが本当の水も滴るいい男ってやつだなと思いながらここで発する一言で私の運命が決まると息を呑んだ。のにも関わらず、私はただそのまま胸の中にある疑問を口にしていた。
「あの・・・私、何も覚えてなくて・・・私は誰なんでしょう?」
その疑問は、私にとっても無自覚で出た言葉。頭の中にまるで白いモヤがかかったように、自分自身のことが何も分からなかった。彼が跡部景吾だということは分かるのに、自分のことは何一つ分からなくて。逆に冷静になってる私がいた。
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